本プロジェクトは、GIS(Geographic Information System)教育の充実のため、大学の実習授業や個人の自主学習等で利用できる実習用の教材を開発し、オープンな活用を推進することを目的としたものです。本プロジェクトで開発した教材は、© GIS Open Educational Resources WG, CC BY-NC-SA 4.0のライセンスで提供しています。以下では、本プロジェクトの経緯やプロジェクトメンバーについてまとめています。
GISの教育は、地理学の今後の発展のために重要である。欧米では1980年代にGISが急速に発展し、地理学にも積極的に導入されたが、日本での導入は遅れた。この遅れは今日までにかなり解消されたが、全国の地理学科や関連学科におけるGIS教育の量と質が十分ではないことも指摘されている。一方、日本の地理学関係の研究者が、GIS教育を充実させる3つの科学研究費(基盤研究A)のプロジェクトを行ってきた。具体的には「地理情報科学標準カリキュラム・コンテンツの持続協働型ウェブ・ライブラリーの開発研究」(平成17~19年度、代表者:岡部篤行)、「地理情報科学の教授法の確立-大学でいかに効果的にGISを教えるか-」(平成17~20年度、代表者:村山祐司)、「地理情報科学標準カリキュラムに基づく地理空間的思考の教育方法・教材開発研究」(平成21~25年度、代表者:浅見泰司)である。その結果、GIS教育の基本となるコアカリキュラムと、GISの諸概念の学習および思考法を発展させるための教材が整備され、ウェブや出版物を通じて公開された。 しかし、GISを活用できる人材を育成するためには、実際にデータを取得・入手し、ソフトウェアを操作し、野外調査にもGISの関連技術を活用し、成果をGISを用いて効果的に発表する技法の教育が必要である。これは2014年9月の日本学術会議の提言「地理教育におけるオープンデータの利活用と地図力/GIS技能の育成」でも強調されている。このような教育を実現するためには、GISに関する実習の充実が重要である。上記したプロジェクトでは、講義用の資料や教材の整備が主な目的であり、実習に関する検討は少なかった。 そこで演者らは、これまでの科学研究費によるプロジェクトの成果を踏まえつつ、大学の学部や大学院におけるGISの実習を充実させるための教材を開発し、社会に公開するための新たなプロジェクトを開始した(科学研究費基盤研究A「GISの標準コアカリキュラムと知識体系を踏まえた実習用オープン教材の開発」、平成27~31年度、代表者:小口 高)。
開発する教材では、室内でのGISソフトウェアの活用、GISと関連した野外調査、インターネットの活用の3点に関する技法を主に取り上げる。また、開発する実習の教材を、以前のプロジェクトで作成されたGIS教育のコアカリキュラムと講義用の資料や、地理学の古典的な概念と関連づける。また、情報系の研究者も本プロジェクトに参加し、情報科学を学ぶ学生のためのGIS教材の開発と、地理系との連携を模索する。 教材の構築の際には学部3~4年生の実習の授業や、自主学習を念頭に置く。一方で高価な機器が必要といった制約がある先端的な課題については、概念を紹介するウェブページや、機器を操作する場面のビデオなどの教材を整備し、機器がなくてもある程度の学習ができるようにする。
本プロジェクトを通じて作成された実習教材は、試用と改良を経た後にインターネットを通じて一般公開し、学部や大学院のGIS実習や、学生や市民の自習に利用できるようにする。とくに無償のGISソフトウェアであるQGISを教材の主要な対象とし、実習に用いるデータも無償でダウンロードできる国土基盤情報などを活用することにより、経費をかけなくてもGISを学べるようにする。また、利用者が教材の問題点を報告し、教材を随時改善するための仕組み(オンライン掲示板等)を整備する。さらにアンケート等を通じて、GIS実習が地理学的認識の向上に与える効果も検討する。
室内でのGISソフトウェアの活用に関する教材については、QGISのような無償で利用できるGISソフトウェアを用いて、GISの基本操作についてまとめている。教材の内容は、以前のプロジェクトで作成されたGIS教育のコアカリキュラムや講義用の資料に対応するように構成している。教材では、基盤地図情報やオープンデータなどの無償で利用できるデータの取得方法についても解説している。
GISと関連した野外調査に関する教材については、野外調査で利用できる機器の操作方法などを教材としてまとめている。高価な機器については、機器説明や操作方法を解説した動画を教材として公開する。動画中の説明については、要所部に字幕のような形でコメントを挿入し、利用者が理解しやすい教材になるように工夫している。
インターネットの活用に関する教材については、Web GISの活用によるデータの作成や公開についてまとめている。Webを利用したGISデータの作成の際には、オープンソースの資源を有効活用しており、地理院地図やCartoDBなどを用いている。Webを利用したGISデータの公開についても、LeafletやCesiumなどとともにGitHubを用いている。GitHubはGISのデータやアプリケーションの関連づけや、Webページを活用した実習教材にも利用している。
これらの教材は、PowerPointファイルとともに、記述が容易であるMarkdownファイルで作成し、GitHubで公開することを検討している。GitHubのPull Request機能を用いることで、利用者による教材改善案の提出が可能となる。利用者による教材の改善や更新は、ソフトウェアのバージョン更新に教材が対応していない場合に有効であり、効率的な教材の修正や補足が可能となる。また、GitHubのIssue機能を用いることで、教材改善の要望や質問の投稿も可能となり、利用者同士によるオープンなコミュニティを築くことができる。
2016年度日本地理学会春季学術大会 発表要旨 山内ほか(2016)より引用(一部修正)
本プロジェクトでは、以下のようにチーム分けされた31名の研究者が参画している。
研究者名 | 所属 |
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奥貫圭一 | 名古屋大学 |
河端瑞貴 | 慶応大学 |
齋藤 仁 | 関東学院大学 |
瀬戸寿一 | 東京大学 |
高橋信人 | 宮城大学 |
谷 謙二 | 埼玉大学 |
西村雄一郎 | 奈良女子大学 |
山田育穂 | 中央大学 |
米澤千夏 | 東北大学 |
研究者名 | 所属 |
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村山祐司 | 筑波大学 |
近藤康久 | 地球研 |
早川裕弌 | 東京大学 |
古橋大地 | 青山学院大学 |
湯田ミノリ | 福岡女子大 |
研究者名 | 所属 |
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貞広幸雄 | 東京大学 |
黒木貴一 | 福岡教育大学 |
高阪宏行 | 日本大学 |
佐藤英人 | 高崎経済大学 |
中山大地 | 首都大学東京 |
研究者名 | 所属 |
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小口 高 | 東京大学 |
岡部篤行 | 青山学院大学 |
石川 徹 | 東京大学 |
田中 靖 | 駒沢大学 |
松山 洋 | 首都大学東京 |
矢野桂司 | 立命館大学 |
若林芳樹 | 首都大学東京 |
研究者名 | 所属 |
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久保田光一 | 中央大学 |
有川正俊 | 東京大学 |
太田守重 | 国際航業 |
藤田秀之 | 電気通信大学 |
研究者名 | 所属 |
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山内啓之 | 東京大学 |
本プロジェクトにおける主な研究業績は、gis-oer/worksのリポジトリで公開しています。